この本は作者本川先生のサイン本なのだ(『絵とき 生きものは円柱形 (たくさんのふしぎ傑作集) (第235号) 』)!
初期の「ふしぎ」には、
『庭にできたウサギの国 (たくさんのふしぎ傑作集) (第4号)』
『どうくつをたんけんする (たくさんのふしぎ傑作集) (第7号)』
『海藻はふしぎの国の草や木 (たくさんのふしぎ傑作集)(第62号)』
などのように、小学生の子供たちを主人公に据え、専門家の先生と活動する、という設定のものが見られるが、これもその一冊だ。
主人公は達彦という男の子。小学3年生だ。
架空なのか実在なのは不明だが、本川先生が達雄、絵の松岡さんが達英ときて「達彦」というのが面白い。
達彦の父は魚の研究者。この夏、瀬底島にある琉球大の研究所で仕事をするのに合わせ、家族とともにやってきたという設定だ。ちなみに、本川先生ご自身も琉球大にいらしたことがあり、実際に瀬底島の臨海実験所(現「琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底研究施設」)で研究をされていた。
じゃあ「本書の案内役である専門家」は達彦パパなのかと思いきや……
なんと、最初の先生は達彦ママの方なのだ!
瀬底島の海に繰り出して、さっそく生きもの観察。波打ち際に転がる黒いソーセージみたいなのを発見しての会話はこうだ。
「たくさんいるな。ねえ、これ動物でしょ?」
「そうよ。これはナマコ。こっちのがニセクロナマコ。それはシカクナマコ」
「ママ、よく知ってるね」
「ママは動物学者のおくさんよ。そのニセクロナマコ、指でつついてごらんなさい」
そこから4ページにわたって、ママの生きもの解説が繰り広げられる。
「それはゼニイシよ。1円玉の形でしょ。有孔虫っていう動物の死んだカラだわ。有孔虫はね、からだが1この細胞からできているのよ。うーんと下等な動物なの。小さいから、これで見るといいわ」
さすがにママはえらい。くびに虫メガネをぶらさげている。
たとえ“動物学者のおくさん”だとしても、生きものに詳しすぎ準備がよすぎるママ。何者だよ。
その後の展開も驚きだ。「広田さん、お願いしますね」とか言って、ママもパパもご退場。二人は水納島へ魚を見に、テントをもって2泊3日の旅に行ってしまうのだ。
(水納島は)ハブがいるから心配なのよね〜と曰うママに、じゃあ息子君預かるわ〜スノーケリング教えたろか〜?と「広田さん」が言うのに、達彦も飛びついたというわけだ。
パパも、ちょっぴりうるさいママもいない休みなんて、ほんと、ゆめさ。
それから先の「案内役」はもちろん「広田さん」。
ひと泳ぎした後は、研究所にあるサンゴの展示パネルを見る、という展開。この「展示パネル」で読者の子供たちもサンゴについて学ぶことになる。
サンゴの不思議な生態。
褐虫藻との驚くべき“共生”関係。
普段目にできない生きものについての興味深い話は、生きもの好きの子供たちをワクワクさせたことだろう。異種のサンゴ同士がケンカするなんて私も知らなかった。
『サンゴしょうの海』は、単に生きものを見せるだけの絵本ではない。本書の目玉はそこで繰り広げられる「共生」の方なのだ。クマノミとイソギンチャクを含め、共生関係の例が多く紹介されている。
先生の本領発揮は最後のページ。「二人はなかま(共生のうた)」という歌だ!
本川達雄 奇跡の番組「歌う生物学」 最終回 - YouTube
こちらの10:45あたりから「二人はなかま(共生のうた)」が披露されている。ぜひ聴いてみてほしい。
先生の「歌う生物学」の原点は瀬底島、「歌い始めは瀬底島」だったようだ(歌う生物学 本川達雄)。琉球大の学生はさすがノリがいい。東工大での白けっぷりときたらこっちが白けるばかりだ。
THE FLINTSTONE:東京工業大学・教授の本川達雄さんに聞く「サンゴのはなし」(08.09.07)
『お皿の上の生物学』(191〜192ページ)によると、本川先生は論文の「要旨(Abstract)」を歌で書いたこともあるという。英語の韻文でなんと楽譜付き!
この論文、
Catch connective tissue: a key character for echinoderms' success. in "Echinoderm Biology", (ed. R.D. Burke, P.V.Mladenov, P. Lambert & R.L. Parsley) p.39-54, Balkema, Rotterdam.
の要旨歌 "A Song of Catch Connective Tissue" は、『ゾウの時間ネズミの時間-歌う生物学』に収録されているようだ。