こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

ヘリコプターのしくみ(第454号)

主役はドーンとど真ん中真正面にご登場。

衒いのない表紙、そしてタイトル。紛うことなくヘリコプターが主人公の絵本だ。

表紙の絵、よくよく見ると操縦席に人の影が見えるのだが、あくまで脇役。

ヘリコプター(とそれに類するもの)が登場しないページはほとんど皆無だ。裏表紙くらいじゃなかろうか。

前段とか歴史とかすっ飛ばして、2ページ目からエンジン全開。群馬県防災ヘリコプター「はるな」(アグスタウエストランド AW139 )をモデルに、ヘリコプターの部品各所のお名前紹介だ。

4〜5ページの「飛ぶ原理」は、物理そのもの。その後も、発生する力の種類やはたらく方向について、折に触れて解説されている。

「ふしぎ」の対象である小学校中学年は、抽象的な思考ができるようになってくる頃と言われるが、こういう“見えない力”を想像できる子と、そうでない子がいるかもしれない。それでも説明に手を抜くことはない。

 

20ページ、風洞実験で思い出したのが、調布航空宇宙センター。以前見学に行った時印象的だったのが、風洞実験施設の充実ぶりだ。作者の齊藤茂氏は、JAXAに統合された前身航空宇宙技術研究所に所属していたので、この調布で仕事をされているのではないだろうか。

航空技術部門について | JAXA航空技術部門

絵本・ペーパークラフト | 航空技術部門について | JAXA航空技術部門

実験用ヘリMuPAL-ε模型 & 実験用飛行機MuPAL-α実機

見学時に撮った写真を発掘して載せてみたが、写真の下手さ加減はお目溢しいただければと思う。↓こちらの方のブログをご覧いただくと、調布航空宇宙センターの魅力が存分に伝わるはずである(こういうきちんとした見学記を書きたいものだ……)

道路を横断するJAXAのヘリコプター!|ゴルゴンゾーラ

JAXA調布航空宇宙センター 見学|ゴルゴンゾーラ

 

息子は今プラモデルづくりに夢中で、でっかいサイズのヘリコプターだの、海自のヘリだの、艦艇に乗っけるちっさいヘリコプターだの、ちまちま作り続けている。私の目にはどれも「ヘリコプター」として同じようにしか見えないけど、子供からしたらどれも全然違うだろ!ということ。まあ野鳥の識別も覚束ない母親に言っても無駄な話ですよね。そういうわけで、この『ヘリコプターのしくみ』も熱心に読み込んでいた。28ページ、シコルスキーを紹介したところを読んで言うには、ハロルドのモデルになったヘリ(シコルスキー S-55)も作ってんだよーと。どっからその知識仕入れたよ……Wikipediaだそうです)。ちなみにこのハロルドのモデルになったヘリであるところの「シコルスキー S-55」は、付録である「ヘリコプターの歴史」ポスターに登場している。このポスターすごくいいですよ。なんも知らん私でも、ちまちました乗り物たちが並んだイラスト見るだけでワクワクしてくる。

本号の魅力もまさにそこにある。数々登場する乗り物の絵を見てるだけで楽しい。たとえ文章や図解を完全に理解しなくとも、楽しめる絵本なのだ。その意味ではもっと小さい子にも楽しめると言える。今すぐ全部をわからなくたっていい。いろいろなことを勉強して、いろいろなことを知った後、また読み返した時に、飛ぶ仕組みやヘリコプターの歴史の部分などを理解する。そういう読み方もできるはずだ。あとあと傑作集として出るんじゃないかなーとは予想しているが、その際付録のポスターは付かないはずなので、ぜひ今のうちに本誌を買ってほしい。

「今月号の作者」紹介欄によると、イラストを手がけた山本瑞樹氏は、消防庁特別救助隊などを経て、現在朝日航洋株式会社でドクターヘリの運航に携わっているという。イラストはなんと独学。「子供の頃から飛行機やヘリコプターが大好き」が高じて、このような作品に結実するなんて最高ではないか。いやはや、最近の絵描きさんは多才なことこの上ない。『なぜ君たちはグルグル回るのか 海の動物たちの謎(第452号)』のきのしたさんもそうだったが、自分の専門分野に関連してのイラストなんて至福の仕事ではないか。家の子も、こういう幸せな仕事をする機会に恵まれてほしいものだ。

ヘリが主役とは言ったけれど、ドローンについても少しだけ触れられている。ドローンとヘリの飛ぶ仕組みの違いがわかって面白かった。

今どきは子供のおもちゃでも、ドローンに類するものが安価で手に入るので便利になったものである。

最近買ったおもちゃを可愛がってお世話してたら、ある日とんでもない姿で持ち主の自分を襲ってくるホラー展開が発生した - Togetter

その昔学習塾の理科実験教室で、手回し発電のドローンをもらったことがあるが、方向のコントロールが効かないのでどっかに当たってすぐぶっ壊れてしまった。子供(と夫!)が遊び倒しただけで、肝心の「回るつばさの科学」について学ぶことはなかったのは言うまでもない……。