建物がつくり出す「空間」に注目した絵本だ。
「空間」が主役なので、写真にうつる空間に人の姿はほとんどない。人はあくまで空間の引き立て役になっている。
しかしその「空間」の妙を味わうのは人。どれも人のためにつくられた空間だからだ。
ステンドグラスから差し込む、色とりどりの光を生かした教会。
赤と黄で染め上げられた住宅。
大きな巻貝のなかに入りこんだかのような美術館。
くじらのお腹のような天井がせまる体育館。
クレヴァスをイメージした真っ直ぐな廊下を施した博物館は、そこに落ち込んだ経験をもつ探検家を記念して作られたものだ。
いにしえの神々を祀るために作られた、大きな丸天井の空間。
「空間」は、字で説明したところで表現し切れるものではない。写真ですらその片鱗しかうつしだすことはできないのだから。それでも作者は、空間のつくり出す雰囲気をなんとか表現しようと試みている。行かないとわからないよ、では身も蓋もないからだ。
子供たちの多くは、ここで紹介される「空間」を体験する機会を持たないだろう。たまたま近所にあるもの、旅行先で行ったもの……せいぜい数ヵ所に限られるのではないか。
それでいいのだ。
この絵本は「空間」に関する旅行ガイドではないからだ。子供たちの目を、建物の「空間」に向けさせるための本だからだ。建物の中に入って面白い空間を見つけてみよう。興味のある空間を探し出してみよう。そして来るべき未来に向け、飛びっきりクールな空間を創りだしてみよう。そのための絵本なのだ。
この本で紹介した空間は、どこでも同じような空間ばかりを経験している子どもたちにとっては、普段あまり見ることのない、特別なものかもしれません。でも、これからは、空間を変えていく力、世界を変えていく力=創造力が求められている時代です。子どもたちと、まわりにいる大人たちが一緒になって、体験する人の感情に訴えかけるいろいろな種類の内部空間を知ることによって、建築や空間に関する夢想力、想像力が育まれ、創造することの喜びを日常的に経験して楽しんでほしいと願っています。(本号「作者のことば」より)
掲載されるのは、おもに次の20の建物。
- パンテオン
- 大ロンドン行政庁 シティ・ホール
- 瞑想の森 市営斎場
- テート・モダン
- 甲賀健康医療専門学校(体育棟)
- 植村直己冒険館
- グッゲンハイム美術館
- Apple Store Fifth Avenue
- ウォルト・ディズニー・コンサートホール
- ノートルダム・デュ・オー礼拝堂
- 国立代々木競技場 第一体育館
- 京都コンサートホール
- ストックホルム市立図書館
- ベルリン・ユダヤ博物館
- ミラノ大聖堂
- サン・ピエール教会
- 奈義町現代美術館
- 松花堂 茶室竹隠
- ガララテーゼ集合住宅
- 高台寺 傘亭
表紙はこの建物の外観の写真が並べられている。表紙裏はその建物の名前を紹介するため、表紙の写真のラフスケッチが並べられ、それぞれ番号が振られている。透かしてみると、おもての写真の裏に、そのラフスケッチのスペースがきちんと重なる仕組みになっていて面白い。表紙と絵の構図は一緒なので、絵自体は重ならないのだが。
裏表紙は普通の子供部屋。この空間をどう変えるか考えてみない?と誘っているかのようだ。
このエントリーをもって、301-400 カテゴリーの記事をすべて書き終えたことになる。
そこで、第301号〜400号までの記事一覧を発行番号順にご紹介する。
『絵で読む 子どもと祭り(第400号)』に追記したので、興味のある方はご覧ください。その他も書き終わり次第、一覧にする予定。