『春をさがして カヌーの旅(第253号)』は、ノースウッズの春を旅したものだった。『カリブーの足音』は冬を描いたものだ。
今回も旅の相棒はウェイン。冬になると、今度はカヌーではなく木製のそりに荷物を載せ、自分の力で引きながら旅に出る。そんなウェインも、小型飛行機で森の奥深くまで出かけ旅するのは初めてのことらしい。
そりの重さはおよそ70kg。引綱を肩にかけて引っ張っていく。寒い中での活動というのはそれだけでエネルギーを消費する。鉢パンツ15kgどころでなく、大変な旅なのだ。しかも真っ平らな雪原だけではなく、森のなかの狭い木立の間や倒木の上なども通らなければならない。こういう場面でこそ、ウェインの木製そりは本領を発揮するものらしい。
「作者のことば」で、大竹英洋は言う。
ところでこの絵本には、ウェインとぼく、野生動物たち以外に、大切な旅の仲間が登場しています。それは、そりやスノーシュー、防寒具といったさまざまな道具たちです。
移動に使うそりもスノーシューも、ずっと昔から狩りをしてきた人々が、この森で育つ木で作ってきました。羊の毛であるウールや、綿の布はヨーロッパから持ちこまれたものですが、ブーツやミトン、上着などの防寒着は、昔からムースやカリブーの毛皮で作られてきました。
つまり、ぼくたち人間は、植物や動物たちのたすけを借りなければ、きびしい冬を生きのびることができなかったのです。
自然に対する畏敬の念は、死と隣り合わせの危険から生まれるものなのかも知れない。“自然の前では人間は無力” とは言われることだが、自然の力を感じられる場所にいればいるほど、無力感も大きなものとなる。人間の力が及ばない自然の中では、死がすぐそばで口を開けて待っているのだから。
一方、こういう場所でこそ、自然の美しさ、偉大さもより大きなものとして受け取ることができる。私はこのような旅に出ることはないが、作者のような人が伝えてくれる、自然のきらめきを、ほんの一部だけでも受け取ることはできるのかもしれない。