こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

しめかざり (たくさんのふしぎ傑作集)(第274号)

スーパーで買い物していたら、サッカー台に「年末お買い物チェックリスト」なるものが置いてあった。我が家は年末年始、毎年双方の実家で過ごしており、正月準備をすることはない。このリストは不要のものということになるが、何となく気になって持ち帰ってきてみた。

このリストは薄っぺらいチラシではなく、A4サイズ・見開きカラーの立派なもの。右ページは「お正月はわが家で年神様をおもてなし」と題し、すす払いやしめ飾り・門松、鏡餅や祝い箸、お屠蘇、お年玉のいわれなどが解説されている。左ページは「おせちのいわれ」として、それぞれの料理についての説明が書いてある。

正月準備やおせちの意味合いを、まったく知らないわけではないが、やはり知らないこと、自分の家でやっていないことも多いものだなと恥じ入った。

すす払い(大掃除)は、冬は汚れが落ちにくい……という言い訳から熱心にやらないでいるが、年神様をお迎えするという本来は、汚れ落ちとかいう合理的な理由に勝るべきものではないのか?干支の置物は辰年のまま置かれている(言い訳すると、とある記念のために飾っている)始末。本号の主人公であるしめ飾りに至っては、なかなか「片付けない」だろうという予想から、一度も飾ったことがないのだ。つまり、わが家(主に私か?)では、正月の風習はすっかり形骸化している。餅が好きというだけで鏡餅を自作する私は、もはや年神様という概念がすっぽり抜け落ち、正月という「イベント」は、好きな物を飾って「取りあえず正月らしくする」という自分中心の行事にしか過ぎなくなっているのだ。

ここで思い出したのが『普通の家族がいちばん怖い―徹底調査!破滅する日本の食卓』。いろいろな意味で毀誉褒貶甚だしい本だが、果たしてこれを読んで、ひどい家があるものだ、日本の未来はどうなってしまうのだろう……と純粋に他人事として嘆くことができる家庭は今、どれくらいあることだろう?わが家とて、ここに出てくる家族と大差はない。クリスマスツリーは出しても門松は置かない。サンタクロースというファンタジーは演出しても、年神様のことは忘れ去っている。チキンは焼くけど、お節は作らない。伝統文化というようなものを彼方へ追いやったまま、若い頃、異教のイベントと言ってバカにしくさっていたクリスマスをこそ大事にしているのだ。このエントリーでは、伝統文化を尊重し、我が国と郷土を愛するというのはどういうことなのかとぶち上げているが、伝統文化を尊重する気がないのは誰あろう、わたし自身だった。

もっとも、正月の風習とて決して「非合理」な慣習ではなく、現実的な理由もあったはずだ。大掃除など、年始客を気持ちよく迎えるという意味合いがあったことだろう。お節だって、流通や商品が限られていた時代のこと、否が応でも慣習どおり作るしかなかったに違いない。しかし、おせちも、カレー選べるようになった今、「昔からそうやってきている」という理由だけで、伝統的な慣習を維持することはできないのだ。

 

しめ飾りも、岡秀行氏が伝統パッケージのことで嘆いたように、終わりつつある文化なのだろうか?長年しめ飾りの調査・研究をしてきた本号の著者は、今年こんな素敵な本を上梓している。そのなかで彼女は、

長年の調査から感じるのは、しめかざりが決して「消えつつある文化」ではないということ、それどころか、年々「熱い文化」になっているという実感があります。(『しめかざり—新年の願いを結ぶかたち』より)

と語っており、しめ飾り文化について決して希望を捨てていないことが見て取れる。

ある年、小学生の男児が「チーズハンバーグしめかざり」なるものを自作し「来年はチーズハンバーグがもっとおいしくなりますように」という願いを込めていたことを引き、

私の持論は「人の数だけしめかざりがある」。新年に込める思いが、人それぞれ違うからです。(『しめかざり—新年の願いを結ぶかたち』より)

という境地にまで達するのだ。本号の『しめかざり』にも、

しめかざりは本来、お正月の神様を迎えるためのものですが、家の中や外にまつられるさまざま神様のためにもつけられます。過ぎた年への感謝の気持ちや、それぞれの思いをこめて。

ということで、農家の人はお米の神様に、漁師さんは海の神様に、というようにそれぞれの神様に感謝と願いを込めていることが書かれている。気持ちを込めるという点では、この「チーズハンバーグしめかざり」も、単なる慣習ではなく本来の意味合いを取り戻したしめ飾りといえるだろう。もともとは各家庭で工夫を凝らし自作していたしめ飾り、「こうあるべき」という呪縛を解き放ったところにこそ、希望は見えてくるのかもしれない。年末、図工の時間にでも作ったら面白いだろうなあ(結局学校頼みか!)。

新しい一年への願いをこめて『しめかざり』|ふくふく本棚|福音館書店公式Webマガジン

しめかざり (たくさんのふしぎ傑作集)

しめかざり (たくさんのふしぎ傑作集)

普通の家族がいちばん怖い―徹底調査!破滅する日本の食卓

普通の家族がいちばん怖い―徹底調査!破滅する日本の食卓

しめかざり?新年の願いを結ぶかたち

しめかざり?新年の願いを結ぶかたち