スーパーで買い物をしていたら、サッカー台に「年末お買い物チェックリスト」なるものが置いてあった。家は毎年の年末年始、双方の実家で過ごしており、我が家で正月準備をすることはない。このリストはいうなれば不要のものということになるが、何となく気になって持ち帰ってきてみた。
このリストはただの薄っぺらいチラシ1枚ではなく、A4サイズ・カラー見開きの立派なもので、見開きの右ページは「お正月はわが家で年神様をおもてなし」と題し、すす払いやしめ飾り・門松、鏡餅や祝い箸、お屠蘇、そしてお年玉のいわれなどがそれぞれ解説されており、左ページは「おせちのいわれ」としてそれぞれの料理についての説明が書いてある。
正月準備やおせちの意味合いについて、まったく知らないというわけではないが、やはり知らないこと、自分の家でやっていないことも多いものだなと恥じ入った。
すす払い(大掃除)は、冬にやると汚れが落ちにくい…という言い訳から熱心にやらないできていたが、年神様をお迎えするためという本来の意味合いは、汚れ落ちとかいう合理的な理由に勝るべきものではないのか?干支の置物は辰年のまま玄関に置かれている(言い訳すると、とある記念のために飾っている)始末、本号の主人公であるしめ飾りに至っては、たぶんなかなか「片付けない」だろうという予想から、一度も飾ったことがないのだった。つまり、わが家(主に私か?)では正月の風習というものは形骸化しており、餅が好きという理由だけで鏡餅を自作する私は、もはや年神様という概念がすっかり抜け落ち、正月という「イベント」は自分の好きな物を飾って「取りあえず正月らしくする」という自分中心の行事にしか過ぎなくなってしまっているのだった。
ここで思い出したのは『普通の家族がいちばん怖い―徹底調査!破滅する日本の食卓』。いろいろな意味で毀誉褒貶甚だしい本であるが、果たしてこれを読んで、ひどい家があるものだ、日本の未来はどうなってしまうのだろう……と純粋に他人事として嘆くことができる家庭は今、どれくらいあるだろうか?わが家とて、ここに出てくる家族とそう大差はない。クリスマスツリーは出しても門松は置かない。サンタクロースというファンタジーは演出しても、年神様のことは忘れ去っている。チキンは焼くけど、お節料理は作らない。日本の伝統文化というようなものを彼方へ追いやったまま、若い頃、自分が異教のイベントと言ってバカにしくさっていたクリスマスの方をこそ大事にしているのだ。このエントリーでは、伝統文化を尊重し、我が国と郷土を愛するというのはどういうことなのかということをぶち上げているが、伝統文化を尊重する気がないのは誰あろう、わたし自身なのだった。
もっとも、正月の風習とて決して「非合理」な慣習ではなく、現実的な理由もあったわけで、たとえば大掃除だって、年神様もさることながら年始客を気持ちよく迎えるためという意味合いもあっただろう。また、流通や商品が限られていた時代は、否が応でも慣習に合わせ、お節料理を作って食すしかなかっただろう。しかし、おせちも、カレーも選べるようになった今、「昔からそうやってきている」という理由だけでは、なかなか伝統的な慣習を維持していくことはできないのだ。
それでは、しめ飾りの方も、岡秀行氏が伝統パッケージのことで嘆いたように、その歴史は終わりつつあるのだろうか?長年しめ飾りの調査・研究をしてきた本号の著者は今年、こんな素敵な本を上梓している。彼女はその中で、
長年の調査から感じるのは、しめかざりが決して「消えつつある文化」ではないということ、それどころか、年々「熱い文化」になっているという実感があります。
と書いており、しめ飾りの文化について決して希望を捨てていないことがわかる。さらに、ある年、小学生の男児が「チーズハンバーグしめかざり」なるものを自作し「来年はチーズハンバーグがもっとおいしくなりますように」という願いを込めていたことを引き、
私の持論は「人の数だけしめかざりがある」。新年に込める思いが、人それぞれ違うからです。
という境地にまで達するのだ。本号の『しめかざり』にも、
しめかざりは本来、お正月の神様を迎えるためのものですが、家の中や外にまつられるさまざま神様のためにもつけられます。過ぎた年への感謝の気持ちや、それぞれの思いをこめて。
ということで、農家の人はお米の神様に、漁師さんは海の神様に、というようにそれぞれの神様に感謝と願いを込めていることが書かれているが、気持ちを込めるという点ではこの「チーズハンバーグしめかざり」も、単なる慣習ではなく本来の意味合いを取り戻したしめ飾りとも言えるだろう。もともとは各家庭で工夫を凝らして自作していたというしめ飾り、「こうあるべき」という慣習の呪縛を解き放ったところにこそ、伝統文化維持の希望は見えてくるのかもしれない。年末、図工の時間にでも作ったら面白いだろうなあ(結局学校頼みか!)。

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