ふしぎな絵本だ。
まるで卵のかけらのような断片的なお話の数々も、自分を「おじさん」呼びする語り口も。
卵というひとつのテーマで結ばれているものの、マグリットの絵で始まり、ハンプティ・ダンプティ、ぐりとぐら、もちろんイースターも、エッグ・ダンスの話があると思えば、最後は『モンテフェルロ祭壇画-聖母子と聖人たち』(ピエロ・デッラ・フランチェスカ)で終わるという、なんとも捉えどころのない、ショートフィルムを次々見せられているような感覚の絵本になっている。
たとえば「大きな卵」のおはなし。『ぐりとぐら』の卵から、エピオルニスの卵*1の話につながり、続いて『アラビアン・ナイト』の怪鳥ロックの卵が登場する。そして宇宙卵の話にまで到達するのだ。著者は、
なんて美しい夢だろう。なんてすばらしいドラマだろう!それに、なんてでっかいパワーのある卵なんだろう!
と感動をあらわにしている。
ページをゆっくりめくりつつ、じっくり想像しながら読み進めていくと、頭の中に数々の「卵のお話」が広がって、遠い時代、遠い世界を旅してきたような気分になってくる。
じっと卵を見ていてごらん。小さな卵が、地球のように重く見えてこないか?
何千年、何万年もの人間の歴史、何億年もの宇宙の歴史、愛や戦争や、誕生や死や、喜びや悲しみや、すべてのいのちのひみつが、この小さな卵のなかにひめられているように見えてこないか?
愛や戦争や、誕生や死や、喜びや悲しみや、すべてのいのちのひみつ……思い出したのが『卵をめぐる祖父の戦争』だ。まさに愛や戦争や、誕生や死や、喜びや悲しみが、卵をめぐるお話のなかに詰まっている!
最後は「おじさんにはひとつの夢がある」と、卵にまつわる夢について語られているが、これがまた奇妙な夢だ。かなえられる夢ではあるけれど……その後「おじさん」は、夢を実現することができたのだろうか。Eiertänzerという苗字の人には出会うことができただろうか。
月刊たくさんのふしぎ 1999年01月号 小さな卵の大きな宇宙
- 作者:明坂英二 文
- メディア: 雑誌
*1:『恐竜はっくつ記 (たくさんのふしぎ傑作集) (第5号)』、『巨鳥伝説(第178号)』でも取り上げられる。