『その先どうなるの?(第142号)』の「ふしぎ新聞」に「ナバホの大地へ」という記事があった。
あ、これは『ナバホの人たちに聞く』の取材の話だなと思い当たり、取り寄せて読んでみた。
本書には、さまざまなナバホの人々が登場する。
・ネズさんと息子のコーベットくん(高校1年)
・ネルソンくん(11歳)、母のローズさん、祖母のアイリーンさん、ひいおばあちゃん(80歳)、いとこのエリカちゃん、アモンゾおじさん
・ジャスティンさん(小学校の先生)
・ターシャちゃん(中学1年)、妹のキムちゃん
・ジェニーさん(60歳・看護師)、娘のべバリーさん、孫のレオンくん、クイントンくん
・ジョーン・ペリーさん(メディスンマン)
一口にナバホの人々といっても、当たり前だが、誰一人同じような生活はしていない。それぞれ違う仕事を持ち、異なる夢があり、一人ひとりの人生を生きている。それでもナバホであるということだけは共通している。ナバホであることで結ばれているのだ。
「ナバホである」というのはどういうことか。
小学校の先生であるジャスティンさんの言葉を借りると、
「それはね、遠い昔からナバホだけにつたわるいろいろな教えや、薬草のちえや、神話を、知っているってことなんだよ」
ということだ。
ネズさんは言う。
「ナバホにとって、大地は母、空は父、太陽は神さまなんだ。わたしの肌は、大地と同じ色をしているだろう。ナバホはね、この大地からうまれたんだよ」
ローズさんが作る「ナバホ・ジュエリー」には、ナバホの信じる精霊たちの力が込められ、アイリーンさんの作る織物には、アイリーンさんの魂がやどる。織物の糸は大地に生える植物を使って染められている。
保育士をするアイリーンさんが、子供たちにナバホ語で話しかければ、ジャスティンさんは遠足の生徒たちに、ナバホにつたわる薬草などを教えている。ジェニーさんは孫たちに、かつて暮らしていたふるさとの谷を見せ、思い出を語っている。
大人たちがナバホの伝統を子供たちに伝えようとすれば、子供たちの方だってパウワウでのコンテストを目指してダンスパフォーマンスを練習したり、カウボーイになることを夢見たりしている。大人たちがナバホの生き方を示すからこそ、子供たちもナバホとしての誇りを持つことができるのだ。
一方で、アイリーンさんが、遠くから遊びにきたエリカちゃんに、ユッカの根で作ったシャンプー*1で洗髪の仕方を紹介したところ「うそだあ。シャンプーは、スーパーで売ってるもん」と一蹴されてしまう場面も。
ある日、調子をくずしてしまったレオンくんを、お母さんがメディスンマンのところへ連れてゆく。メディスンマンは伝統的な医療を司る治療者だ。メディスンマンはふつう、ナバホ以外には治療(儀式)をしないのだが、作者は、ナバホのところへ何年か通ううち、ペリーさんというメディスンマンを紹介してもらうことになる。ペリーさんは「あなたの人生に、すてきな未来がおとずれ、願いがかなうように」と、儀式を施してくれるのだ。儀式を授かった後、黄昏時の小高い丘で祈りを捧げる様子は、ナバホの大地を全身で感じるよう。こちらまでなにか不思議な力がわいてくる。
『その先どうなるの?』の「ナバホの大地へ」の記事には、ネズさんが、“ホッジョー”という言葉を紹介してくれた話が書かれている。
「大地の子どもたちが自然を気づかって、みんなが愛し合って暮らしていたら、世界はホッジョーにつつまれる」のだそうだ。
ことばの万国博覧会「アメリカ館」 (北アメリカの先住民のことば―表現と認知の特性― ナバホ語<アサバスカ語族:ナディネ>)
しかし今、ナバホの生活に関する心配なニュースも伝わってきている。
米先住民ナバホ居留地でコロナ流行、「手洗い」できず…歴史的な格差浮き彫りに 写真5枚 国際ニュース:AFPBB News
この号に登場したナバホの子供たちは、大人になっていることだろう。あれから20年以上経った今、当時とは異なる事情があり、生活スタイルも変わっているかもしれない。しかし、今なおナバホの大地で暮らしているのであれば、「ナバホとして」今の危機に立ち向かっているだろうし、“ホッジョー”につつまれるときを願って、大地に祈りをささげているに違いない。
ナヴァホ・ネイション、アウトブレイクに立ち向かう先住民コミュニティー - BBCニュース
月刊たくさんのふしぎ 1998年10月号 ナバホの人たちに聞く
- 作者:ぬくみちほ 文・写真
- メディア: 雑誌
*1:ナバホのシャンプーについては、こんな面白い質問も見つかった。