こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

雪虫(第344号)

手紙で友だち 北と南 (たくさんのふしぎ傑作集)(第60号)』の29ページ、10月15日の通信には、雪虫のことが出てきている。

ゆきむし、見ました。ゆきむしは白いわたのようなものをつけてるむしです。わたしは、ゆきむしをつかまえてみました。もうすこしでゆきがふるのかなと思いました。(『手紙で友だち 北と南』より)

今回、東北に引っ越して初めての冬、雪虫見られるかなーと楽しみにしてたのだけど、雪虫どころか、12月半ばからドカドカ降って、初雪の風情など消し飛ぶ始末。本格的な積雪に子供は大はしゃぎ。毎日学校で雪合戦に興じていた。東京の学校では積雪時校庭で遊ぶことは禁じられていたため、学校でも思う存分雪遊びできるのは楽しかったようだ。こちらでも昨年はほとんど降らなかったようで、雪遊びはみな久しぶり。登校前、ランドセル背負ったままそり遊びする子を見かけたりもした。

本号の主人公である「雪虫」の本名は、トドノネオオワタムシ。雪とか綿とかついてるのはフワフワ飛ぶからだけど、実はアブラムシのなかまだ。

 この虫は、子どもを産み、その子がまた子どもを産むということを、1年の間に6〜7回もくり返し、その間に姿も食べるものもかえる。

4月、ヤチダモにあらわれたのは、木に産みつけられた卵から生まれた「幹母」。フワフワただよう「雪虫」とはまるで違う様相だ。ヤチダモの樹液を吸ってすくすく成長した、この幹母(1世代目)は脱皮を繰り返し、5月には、およそ150匹もの子供たちを直接産む。本家アブラムシと同じく、単為生殖でメスの子(2世代目)をじゃんじゃん産んでいく。

6月、メスの子(2世代目)は、脱皮をくり返し、最後には「雪虫」そっくりな体に成長する(初夏の雪虫)。ちなみにトドノネオオワタムシは、どの世代も生まれてから4回脱皮して成虫になるそうだ。その後「初夏の雪虫」は、翅を使ってヤチダモからトドマツへの引越しを開始する。

トドマツの森に引っ越した「初夏の雪虫」は、木の根元で翅のないメス(3世代目)を産む。3世代目はなんと、アリにくわえられてアリの巣に運ばれ、トドマツの根っこから樹液を吸って生活するのだ。彼女らも4回脱皮すると、地中のくらやみの中、単為生殖でメスの子(3〜4世代目)をじゃんじゃん産んでいく。

秋が深まる頃、メスの子(3〜4世代目)から、翅のあるメス(5〜6世代目)が産まれる。トドマツからヤチダモへのお引っ越しのためだ。開成小の子が「ゆきむし、見ました。」というのは、この引越し飛行の最中のことなのだ。

いわゆる「雪虫」であるところの、翅のあるメス(5〜6世代目)は、引越し先ヤチダモの幹で子を産む(単為生殖)。6〜7世代目だ。この子たちはメスだけではない。1年に1回、この時だけオスが誕生する。オスは緑色だが、卵をはらむメスはオレンジ色、オスよりちょっと太めだ。彼らは何日かのうちに4回脱皮して成虫になる。翅はなく口すら持たない。彼らの命は、交尾というただ一つの役割のためにある。役目をつとめれば、生命は終わりなのだ。

そして春、ヤチダモの幹のくぼみや木の皮の隙間で冬を越した卵から、幹母(1世代目)が産まれてくるのだ。

 こんなふうに、1年間に6〜7世代が、小さな命をリレーしている。それぞれの世代は、次の世代に命をつなごうとする。

私たちがイメージする「雪虫」は、トドノネオオワタムシの、ライフサイクルのほんの一部分にしか過ぎなかったのだ。たった1年の間に、これほどの変化をくり返し、命をつないでいる。人間のライフサイクルと比べると、途方もなく短いスパンだ。

命のリレーをする間、じゃんじゃん命を落としていく。クモの巣に引っかかり、クサカゲロウの幼虫に喰われていく。アブラバチのなかまに寄生されたりもする。テントウムシにむさぼり食われ、ヒラタアブの幼虫に刺される。トンボに捕らえられ、ヒガラの餌になる。本家アブラムシと同様、遍く命を支える存在でもあるのだ(『ノイバラと虫たち (たくさんのふしぎ傑作集)(第123号)』)。

ほんの1年のできごとなのに、長大な時を見ているような感覚に陥るのは、雪虫のライフステージが目まぐるしく変わっていくからだろう。過剰な表現を排し、シンプルな文とシンプルな写真で構成されたこの本は、雪虫が生きる“時”に思いを寄せることができる、素晴らしい1冊に仕上がっている。

今ごろ雪虫たちは、トドマツの木に守られて、春を待っていることだろう。

本号は、どうやら3月に「傑作集」として出版されるようだ。同作者の『トドマツ(第370号)』もそうだったが、シンプルな表紙が美しい。見るのが楽しみだ。

雪虫 (たくさんのふしぎ傑作集)

雪虫 (たくさんのふしぎ傑作集)

  • 作者:石黒 誠
  • 発売日: 2021/03/31
  • メディア: 単行本