こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

釣って 食べて 調べる 深海魚(第436号)

まず深海とは?

深海とは海面から200メートルより深い海のこと。

明確な定義があるわけではないらしい(深海 - Wikipedia) 。

日本は深海がご近所にある国。相模湾駿河湾富山湾、室戸沖など、数十分も船を走らせればすぐ深海にアクセスできるのだ。深海にたどり着くまで数日がかりという国もあるから、いかに恵まれているかわかるだろう。

 

初っ端登場するのはヘラツノザメ。英名はBirdbeak dogfish、バード(鳥)なんだかドッグ(犬)なんだか、わからん魚である。

 水深500メートルへしかけをしずめる。エサは魚の切り身だ。何度もリールを操作し、深海魚のすむ海底にエサをただよわせて待つ。釣れなければ場所を変え、しかけも変え、工夫をこらしてみる。何十分、いや何時間たっただろうか?とつぜん釣竿が曲がった。やった!ついに深海魚が食いついたぞ。

エサの魚も釣ったもの。その海にいる魚を食べてるはずだから、合理的だ。

 遠い遠い深海からやってきた深海魚を、生きたまま触って観察する。……最高にドキドキする瞬間だ。

確かに。渡り鳥見てると、こいつらは私が行ったこともないような遠くから来て、今ここにいるんだ、と不思議な思いに駆られることがある。野鳥にはさわれないけど、魚なら好きなだけ触れて観察することができる。生きてるのさわって観察できるっていい。先日は、マンションにでっかいカミキリムシ(シロスジカミキリ*1が飛んできてて、子供に教えたら捕まえて持って帰ってきてしまった。せっかくなのでベランダに置いて観察させてもらった。さわったらギチギチ怒ってたけど。足の力がすごい。何か掴んでるところから引っぺがそうとしてもびくともしない。子供の方は弄りすぎて指を挟まれ流血していた。

 

魚はさらに楽しみがある。食べることだ。しかし観察を兼ねてると、魚を「捌いてる」のか「解剖してる」のかよくわからなくなってくる。ヘラツノザメ、もといサメに興味がなかったので、ロレンチーニ器官なんてのも初めて知った。深海ザメにはあんなでかい肝臓が詰まってるなんてことも。ほとんど肝臓でできてるじゃん。肝に全部取られてるからか?身の方はさっぱりした味わいのようだ。薄切りの肝といっしょに食べると旨いと書かれている。「生きもの」として見た後、そのまま「食材」として味わうという流れが実に面白い。

見慣れない魚だけでなく、食卓にのぼるようなお魚も登場している。たとえば、東北へ越してよく食べるようになったノドグロ。夫は毎日でも食べたいというくらい大好物だ。高級魚とはいえ、小さいサイズを詰めたパックはお手頃価格。煮付けにすると、子供は煮汁まで舐め尽くす勢いだ。ノドグロはその名のとおりの喉だけでなく、お腹の中も真っ黒な魚。私は夕飯の支度に忙しくて、なんで黒いかなんて考えたこともなかったけど、ちゃんとした理由があるのだ。やっぱ余裕がないと「食材」としてしか見られんよなあ……(『海藻はふしぎの国の草や木 (たくさんのふしぎ傑作集)(第62号)』)。

この本に出てくる中では、キチジもよく食べられている。地元産のはちょっと高くて手が出ないが、アメリカ産のは年中出回っていて、蒲鉾などにも加工されている。食べたことはないが、バラメヌケユメカサゴなどもスーパーで見かけたことがある。これら「食材」の魚たちも「生きもの」として解説されると、じゃあ今度買ったとき観察してみようかなという気になってくる。問題はその時に覚えていられるかだが……。

キチジのすみかはどうなった?

南極のお魚たちは、フライムニエルフライムニエルだったけど(『南極のさかな大図鑑 (たくさんのふしぎ傑作集) (第333号)』)、深海魚の料理法は意外に幅広い。刺身に塩焼き、煮付け、フライ、変わったところでは叩いてなめろうなんかも作られている。捌いて肉質を見た後どんな調理法が向いてるか考えるのも、楽しい作業に違いない。

もちろんなかには、おいしくない魚、食べるとお腹を壊す魚もある。そんな魚は、俄然「生きもの」としてしか見られなくなってくる。「生きもの」と「食材」の間を揺れ動く、本書を読むとそんな面白い体験ができること請け合いである。

 

だが、深海魚の最大の魅力は「釣る」ことでも「食べる」ことでも「調べる」ことでもない。「新種」が出る可能性があることだ。あるいは「珍魚」とか。作者が釣り上げたなかには、研究者によって新種として記載されたものもある。2018年には「正体不明の魚」も釣り上げている。現在調査中ということで、報告が待たれている。

 深海魚の研究はまるで宝探しだ。だれも知らないことがこんなにたくさん残されているのは、地球上で深海だけだ。深海魚、最高だぜ!

激レア!深海魚『アオスミヤキ』を釣って食べる ※追記あり | 平坂寛のフィールドノート

 

しかし……釣りというのはお金もかかるが、時間もたっぷり使う、ある意味ぜいたくなレジャーだ。夫も釣りをするが、行ったらまあ一日は帰ってこない。子供が小さいうちだったらブチ切れてたとこだ。知り合いのバーダーの方も、野鳥観察は、もともと釣り好きだったお父さんが宗旨替えして始めたのがきっかけだと言っていた。週末のたび、家族を置いて出かけるお父さん。あるときお母さんが怒りを爆発させる。「外に出るなら、子供も楽しめるような趣味にしてくれ」と。そこで、地元の探鳥会があることを知り、家族で参加したことを機に始まったという。お父さんも、よくきっぱり「つり」から「とり」へ切り替えられたものだ。考えてみれば、狙った魚が釣れるかわからない、釣れるかどうかもわからないという一期一会は、見たい鳥がそこにいるかわからない、何が見られるかもわからないという野鳥観察とたいして変わらないのかもしれない。

スーパーにキチジ(岩手産)が売ってたので、さっそく買って観察してみた。頭のトゲなんて、調理の邪魔としか思わなかったけど、これも生存のための武器なのかもしれない。口をパカっと開けて歯も観察してみたが、意外な並び方してて面白い。何をどうやって食べてるんだろう?

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*1:ちなみに……作者のブログによると、シロスジカミキリの幼虫は滅法美味いらしい。確かに食べ応えがあっておいしそうだ。採集は難しいようだけど。(シロスジカミキリの幼虫『鉄砲虫』はマジで美味い | 平坂寛のフィールドノート