こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

南米アマゾン 土を食う動物たち(第418号)

アマゾンは謎だ。

今や世界最大級となったオンラインストアが、その名を冠したのもわかる気がする。アマゾンは世界最大規模を誇る河川であり、謎に満ちたわくわくするような場所なのだ。この本だってアマゾンと名はついてるけれど、舞台となるのはほんの端っこにしか過ぎない。

 子どもの頃からアマゾンの色鮮やかなコンゴウインコに憧れ、それを自分の目で見たいと思っていた私は、大人になってから何度もアマゾン川流域各地を訪れるようになりました。

謎に満ちる理由は明瞭だ。人を寄せつけない奥地も多いからだ。この本の舞台となるマヌーもその一つ。まずもってペルーが遠い。日本からの直行便はない。アメリカ経由で首都リマまで飛ばなければならないのだ。そこからクスコ、さらにプエルトマルドナードへと乗り継ぐ。現地マヌーへは、村のはずれから小さなボートで6時間!川を遡って到着するという有様だ。『ギアナ高地 謎の山 テプイ(第437号)』でもサリサリニャーマまで、かなりの道のりだったが、なんとまあ日本の感覚では計りしれないくらいのスケールである。

アマゾンといえば熱帯雨林。最初に登場するセイバツリーは、『熱帯雨林をいく(第189号)』に登場する木のように、巨大な板根で支えられている巨木だ。セイバツリーはかつてアマゾンでふつうに見られる木だったが、利用できるとみれば切りたがる人間事情にもれず、数を減らしつつあるという。マヌーは容易に近寄れない場所ゆえ、まだまだ多くの大木が残っている。 

 陽の光が届きにくい熱帯雨林のなかは、ヤブや下草が育ちにくいため、慣れれば意外と見通しがききます。そんな歩きやすいところを選んで歩いていると、不思議な場所にたどり着きました。うす暗かった茂みの向こうが明るく開けて、むき出しの土が見えます。広さは15畳ほどありそうです。

 反対側から見ると、土手にはぽっかり大きな穴があいています。ぬかるんだ土の上には、まだ新しい動物の足跡がたくさん残っていて、その穴のほうへと続いていました。何かの動物がここを歩いていたのは確かです。

場所をよく知る先住民マチゲンガ族によると、「コルパ(Collpa)」と呼ばれる場所だという。土は、明るい黄土色で粘土質。黒褐色で落ち葉や砂がたくさん混じる、熱帯雨林の土とは明らかに異なっている。

6ページは、一枚のコルパの写真。「コルパのまわりで何かの痕跡を見つけました」と題し、ポイントとなる場所に6つの番号が振られている*1。7ページはその番号の箇所のクローズアップ写真が6枚。さあじゃあ、この番号の謎、関わる動物が、のちに解き明かされていくのかといえばそうではない。いや、確かに解き明かされはするのだけど……。フツーの子供の本だったら、まあここで「どんな動物の跡なのか次の選択肢から当ててみよう」とか「次からのページで探してみよう」とかひとこと入るのだろうけど「たくさんのふしぎ」はそんな無粋なことはしない。「解答」もきちんとあるのだけど、その場所すら明記されない。この本の目的は、当てっこクイズではないからだ。しっかり読んで、また読み返せば、この動物がこういう感じで痕跡を付けたんだなってわかるようになっている。

冒頭「謎に満ちたわくわくするような場所」と書いたが、それを描き出すにふさわしい、素晴らしい写真の数々だ。「土を食う」というタイトル、表紙写真の“地味”さからは、想像もできないくらいのカラフルな世界が広がっている。いうまでもないが「土を食う」って表現、すごくいい。「食べる」じゃダメだし、「食らう」だと行き過ぎだ。表紙写真だって地味といったけど、見開きにするときっちり「本の顔」としてはたらいていることがよくわかる。表紙含め、コルパの同じ場所で、違う動物が集まる写真が3つあるが、そのどれもが素晴らしい。

“アマゾンの色鮮やかなコンゴウインコに憧れ”とあるとおり、20〜21ページ見開きいっぱいに飛ぶベニコンゴウインコは圧巻だ。彼らはアマゾンでこそ映える生きものなのかもしれない。色鮮やかな羽を見せつけるように飛ぶ姿は、動物園で見るのとはまったく違った魅力がある。

惜しむらくは、写真の力が強過ぎて文章が頭に入ってこないこと。文を読もうと思っても、動物たちの生き生きした表情にやられ、ついつい目がいってしまう。ぜひ、デジタル画面で見てみたい「ふしぎ」*2の一つだ。

コルパで土を食う動物たちの数々、とりわけサルを見て興味を引かれたのか、なんと作者も土を口にしている。

何度味見をしても、細かい土のザラザラした感触だけが舌に残ります。とても食べられるものではありませんでした。

何度味見をしても?なんかみんな美味そうに食べてるから、何度も試してみたくなるのもわかりますけど……。まあ、動物が食べるんだから人間が食べないわけもないのだ。

北海道で自然農実践する者からのお願い「土を食べるパフォーマンスを広めないで下さい。先日、道外出身で自然農を志す友人が真似して土を食べてしまいました」 - Togetter

*1:「コルパのまわりで何かの痕跡を見つけました」の字と「番号」の数字は、黄色地に黒字で作られているが、よく見ると黄色地には黒いノイズのようなものが散りばめられている。数字はステンシル書体、丸囲みは真円ではなく手作りで切り抜いたような形をしている。色や形がクリアだと写真と調和しないのだろうか?工夫が見られて面白い。

*2:家をかざる(第409号)』参照