こどもと読むたくさんのふしぎ

福音館書店の月刊誌「たくさんのふしぎ」を読んだ記録です。

塩は元気のもと(第165号)

東北地方に引っ越して、ちょっと驚いたのが料理の味付けの濃さ。自分の料理が比較的うす味なのを差し引いても、 なかなかに塩っぱい。塩分多めの食事は、ひとえに寒い冬を乗り切るため。冬に備えて野菜を塩蔵しなければならなかったし、塩には何より身体をあたためるはたらきがある。暖房設備や冷蔵機械が普及したとはいえ、長年の食習慣を変えることは難しいようだ。

とはいえ、長い目で見れば塩は貴重品であり、今のように摂り過ぎを注意されるほど、容易に手に入るものではなかった。狩猟生活をしていた頃の人間は、動物を食べることによって塩分を取っていた。すなわち草食動物が土壌の塩分を舐め、肉食動物は草食動物を食べ、その肉を人間が食べることによって塩が受け渡されていたのだ。塩を作る必要に迫られたのは、穀物を食べる生活に変わってからだ。

「塩は、海からの白い贈り物」であるけれど、世界的に見れば、我が国のように海水から塩を作っているところはずっと少ない。陸から取るところが大半だという。あんなにしょっぱい海の水も、塩分濃度はたったの3%。塩3グラム作るのに、海水100グラムから97グラムもの水を取り除かなければならないのだ。陸の塩に恵まれなかった日本の製塩の歴史は、塩と水を効率よく分けようと頑張ってきた技術の歴史でもある。

日本の塩づくりの歴史 | 塩のつくり方 | 塩百科 | 公益財団法人塩事業センター

本書は、

  • 塩はどうやって作られてきたのか

という製塩の歴史だけでなく、

  • 身体の中で塩がどういうはたらきをしているのか
  • 料理の中でどういう効果を生み出すか
  • 工業用ではどういう使われ方をしているのか

などなど、その項目だけで1冊書けてしまいそうなトピックを、盛りだくさんに詰め込んで作られている。塩についての知識を紹介するだけでなく、「たくさんのふしぎ」らしく実験のページも盛りこまれている。

海水を煮詰めて塩を作る実験から、塩を使って凍らせる手作りアイスキャンデー、面白いところでは卵黄の塩づけのレシピなんかもある。塩入りと塩なしではパン生地の粘りはどちらが強くなるかというものなど、パン作りも兼ねてお得な実験だ。『粉がつくった世界』では、グルテンの形成には「粉」が関わっていることが書かれていたが、「塩」も大切な役割を果たしていることがわかる。 

これからの季節、熱中症の心配が取り沙汰される時期に入ってくるが、水分だけでなく塩分補給も!とは言われる話だ。地球上の最初の命は、塩を含んだ水ー海水の中で生まれ、私たち人間も海水(羊水)の中から誕生する。「塩は元気のもと」であるばかりでなく「命のみなもと」でもあるのだ。

本号は「ふしぎ新聞」がとくに印象的だった。

一つは「わたしのアラスカ物語」という星野直子さんの連載。ブッシュパイロットの友人たちとセスナで、ブルックス山脈を越えたところにあるジェゴ川に、日帰り旅行をしたときのことが書かれている。その地域は、カリブーが季節移動するときによく通る場所で、星野道夫カリブーの撮影で何度も訪れていた所だったという。

息子がもう少し大きくなったら、ここでキャンプをしてゆっくり過ごせたら素晴らしいなと思っています。夫が大好きだったこの場所で、夫のアラスカでのテーマの一つだったカリブーを、息子に見せてあげたい。大きくなって父親を理解する手がかりに、きっとなると思うのです。

その後幼い翔馬君が、母直子さんとともにこの地を訪れたかは定かでないが、NHKの番組の中で、“ブッシュパイロットの友人”である、ドン・ロス氏と会えたことは、きっと“父親を理解する手がかり”となったことだろう。

森へ (たくさんのふしぎ傑作集) (第105号) - こどもと読むたくさんのふしぎ

 

もう一つは、読者からのおたよりコーナー。タイガー立石の訃報に接した、長野県在住のTさん(19歳)から寄せられた手紙だ。タイガー立石と、彼の遺した作品への熱い思いが伝わってきて、最高の弔辞になっている。本当に素晴らしい。全文紹介したいくらいだ。

たくさんのふしぎ」=「タイガー立石さん」という図式も存在するくらい、ほんとうにタイガー立石さんの描く、不思議で、広がりとユーモアのある、天才的な世界が大好きだったんです。

どんな小さな日常の出来事も、単純に「当たり前だ」とせずに、そこから探究心をはねのように伸ばして、感動しながら、驚きながら、見つめている姿勢ーそれもほんとうにすごいことだと思います。それも表面だけでそんなふりをしているのではなくて、心底そうだったからこそ、あんなにも人の心を動かす作品を生み出すことができたのでしょうね。

タイガー立石さんの心は、広大で無限で色とりどりの、私のイメージでは「ファンタージエン」(ミヒャエル・エンデの『果てしない物語』の中の国です)みたいだったんじゃないかな。

Tさんの家では『すてきにへんな家』が不動の人気ナンバー1で、Tさんお気に入りの1冊は『顔の美術館』だそうだ。そんなTさんも、今や小学生の子を持つ親になっていてもおかしくはない年齢だ。もしそうなら、一緒に今でも読んでいたら良いなあと思う。