これは色の化学の本だ。
「たくさんのふしぎ」には、色を題材とするものがいくつかある。
草木染めを扱った『草や木のまじゅつ (たくさんのふしぎ傑作集)(第3号)』。
“素人”の草木染めの実践(実験?)が出てくる『ギョレメ村でじゅうたんを織る (たくさんのふしぎ傑作集) (第102号)』。
印刷におけるCMYKカラーモデルがテーマの『いろ いろ いろ いろ(第203号)』。
土の色味を使って美術作品を作り上げる『土の色って、どんな色? (たくさんのふしぎ傑作集)(第252号)』。
昔の人びとの絵の色を見ることができる『四万年の絵(第376号)』。
これらで扱われる「色」がどう出来上がってきたのか?
『いろいろ色のはじまり』は、その「はじまり」を紐解いた絵本なのだ。
子供は色が好きだ。
クレヨン、クーピー、色鉛筆、絵具……
普段なんの気無しに使っているこれらの色。
昔の人たちはキミたちのように簡単に色を使ってたわけじゃない。そりゃあもう苦労して手に入れてたんだよ。
そんなことを教えてくれる本だ。
手間暇かけて金かけて。ときには毒をも使って。
色を、簡単に、安く、安全に、手に入れたい!
人びとのその望みが「色の化学」引いては化学の発展につながってゆく。昔の人たちの「色の実践」こそが、現代の化学を作り上げている。そんなところも見せてくれる。
付録のポスターはまさにカラフルそのもの。見てるだけで楽しくなってくる。
しかし色を題材としてるだけに、印刷の具合にはかなり気を配ったのではないだろうか。この絵本で見る「色」自体、「いろいろ色のはじまり」の積み重ねの上に出来上がっているというわけだ。
「作者のことば」に出てくる写真は、モノクロで分かりにくいけど、実は「アレッポ・ゴール(Aleppo gall)」という虫こぶ(『虫こぶはひみつのかくれが?(たくさんのふしぎ傑作集)(第86号)』)。インクなどの原料として使われていたそうだ。
たくさんのふしぎ「いろいろ色のはじまり」のふしぎ新聞に出したのはこれ。中を割るとハチのミイラが出てきたりします。 https://t.co/bHdg82LnFQ
— 山猫だぶ㌠ (@fluor_doublet) 2023年9月9日
ちょっと気になったのが、辰砂の取材におかざき真里が協力してること。マンガ家さんなので不思議ではないが、ご自身の作品にも使ってらっしゃるのだろうか?
作者の田中陵二*1先生は、新鉱物の北海道石の発見に関わった方でもある。
*1:以前先生のブログdoublet’s diaryを読んでた。前の『石は元素の案内人(第449号)』のときもそうじゃないかなあと思ってたのだが。はてなで知った方が「ふしぎ」を書くなんてちょっと感激する。