今年度のラインナップを見て、もちろん楽しみにしていた。
『ぼくが見たハチ(第161号)』で、寄生バチに興味をもった身としては、楽しみにしないわけがない。
期待に違わず、素晴らしい絵本だった。
どのハチもキラキラ輝いている。
ともすれば暗くなりがちな画面も、主役一人一人(一匹一匹か)に、スポットライトが当てられている。
トップを飾るは、アケビコンゴウハバチ。アケビの葉っぱにぶす〜っとする産卵シーンを激写。若葉の緑とのコントラストが美しい。
マダラアブラバチの柔軟さは体操選手も真っ青だ。体を目一杯折り曲げ、クリオオアブラムシにぶすーっ。
コブクモヒメバチの恐ろしい戦略の数々も、写真で見れば、美しいとも思えてくるから不思議だ。
子供は、アオムシコマユバチ幼虫が、モンシロ幼虫体内からわらわら脱出する写真を見て戦慄していたが、今度「アワヨトウ幼虫からカリヤサムライコマユバチ幼虫が100匹以上脱出してくるシーン(『ぼくが見たハチ』参照)」でも見せてやろうか。
驚いていたのが、水中のアメンボの卵に寄生するハチ。アメンボタマゴクロバチだ。えー水ん中まで産みに行くのー!?って、驚け驚け。卵寄生バチは使えるものは水中にいようがなんでも使う、貪欲な奴らなんだから。一列に産み付けられたアメンボの卵。艶やかな卵から透けて見えるのはどれもハチのサナギだ。中身は食べ尽くされ、じっと羽化を待っている。水中ですくすくと育ち、産まれ出づる時は陸へと脱出するなんて、われわれ人間のようではないか。
でっかいアゲハ卵ボールにちょこんと乗っかるは2匹のキイロタマゴバチ。玉乗りしてるわけじゃない。れっきとしたお仕事(産卵)中だ。
アシナガバチの巣の横で、虎視淡々と機会をうかがうはアシナガバチヤドリヒメバチ。狙っているのは幼虫だ。あんなでっかいハチがいるところ、どうやって裏をかこうというのだろうか。
美しい、ハチたちの数々。虫嫌い、ハチ嫌いでも十分楽しめること請け合いだ。
中にはちょっと厳しいグラビアもある。サトセナガアナバチだ。メタリックな緑青色、煌めく体は宝石のよう、ブローチにでも仕立てたいくらい。しかし!彼女が狙うはクロゴキブリの幼虫だ。幼虫頭部の神経節にぶすり。これで動きをコントロールする。触角は一部だけ残して切り落とし、その一部をくわえて巣まで引きずってゆく。幼虫とはいえゴキブリの方がでかい。ゴキブリは引かれるがまま自らの足で刑場まで歩かされるのだ。永久麻痺状態でハチの幼虫に食われる刑。ゴキブリに何の罪がありましょう?子供は、これエメラルドゴキブリバチじゃね?と言っていたが、どちらも同じセナガアナバチ属のハチである。
私が気に入ったのは、オオホシオナガバチ。黄黒の警告色を控えめにまとう、しなやかで細身の体が美しい。木に刺しこまれた産卵管は長く伸び、優雅にカーブしている。木に刺さっているが、キバチではない。木の内部でぬくぬく育つキバチの幼虫にブッ刺しているのだ。キバチのお母さんがせっかく隠してくれてたのにねえ。
私も早くブスーってしてもらいたいものだ。寄生バチの卵じゃなく、ワクチンを。2回終わるのはいつになるのかなー。
表紙も出色だ。見開き全面に、9匹の“ブロマイド”が配置されている。センターはクマバチ。正面顔がばっちり決まっている。色合いがまとまっているにもかかわらず、ハチたちの個性が際立っているのが素晴らしい。
惜しむらくはタイトル。シンプルすぎて、子供たちに手にとってもらえるか心配になってしまう。ミツバチやスズメバチみたいな、フツーのハチの本だと思われないだろうか。この本に、すごいハチの世界が広がっているの、見つけられるかな。開いてさえもらえれば、絶対わかるはず。私が夢中になったくらいだから、この本を読んで「ハチという虫」に引かれる子供たちも、きっといることだろう。
- 作者:藤丸 篤夫
- 発売日: 2021/05/01
- メディア: 雑誌
「たくさんのふしぎ」って、けっこうハチ好きだよね?
と思って、昆虫テーマのものをざっと書き出してみた。「チョウ」と「ハチ」が多いことがわかる。
※ リンク先は記事に飛びます。
チョウはわかる。きれいだから。昆虫採集でも花形、身近ですぐ観察できる親しみやすい虫だ。非公式だが、国蝶という形でオオムラサキも選ばれている。子供の中学の教科書を見て、いまだ「少年の日の思い出」が載っているのに驚かされた。すでに70年間以上、歴代の子供たちが読み続けているのだ。子供がファッキューな話?とか聞くので、えっ読んだことあったっけ?って思ったら、「何となく」。読んでもないのに、ひとことで本質を表すとは。
ハチはどうだろう。国蝶はあっても国蜂はない。人気どころか、嫌われがち恐れられがちな虫だ。本号「作者のことば」でも、
私もハチのことをよく知らないうちは、近づかないようにしていました。
私自身、子どもの頃にハチに刺された経験から、よけいにこわがっていたのかもしれません。
と書かれている。身近にいて害をなす、時に死すら招くハチは、怖がられて当然の存在かもしれない。一方で、ミツバチという「私たち人間が恩恵を受けている」ハチもいる。
ハチミツはおいしいけど、ミツバチに刺されたり、スズメバチに襲われたりするのはこわい。
多くの人にとって、ハチは、ミツバチ、スズメバチくらいしか意識にのぼらない存在なのだ。自然観察のイベントでも、ハチに注意せよという言葉がけはあるけれど、(危険のない)ハチを観察してみようというのはほとんどない。
そういう意味で、ミツバチ、スズメバチだけではない「ハチの世界」を見せてくれる「たくさんのふしぎ」は、子供たちの持つハチのイメージを変えてくれる絵本なのだ。
しかし後にハチのことが書かれた本をいろいろ読み、実際に野外で活動しているハチたちを観察していると、ハチがこわくなくなり、逆にこれほどおもしろい虫はなかなかいないだろうとまで思うようになりました。(本号「作者のことば」より)
本当に、知れば知るほど面白い世界が広がっている。「たくさんのふしぎ」で多く取り上げられるのも、チョウの“わかりやすさ”とは違った奥深さがあるからだと思う。
自由に動き回り、時には危険が伴う相手に卵を産みつけ、ふ化した幼虫が無事に育つように進化と変化を繰り返して来た結果、他には類を見ないほどの種類の多さと多様性に富んだ寄生バチの繁栄があります。(同上)
「ハチ」という言葉にひるまず、多くの子供たちに手にとってもらいたいものだ。